鄴攻略編(鄴攻め)は『キングダム』の中でも特にボリュームのあるエピソード。
嬴政のもとで本格的に中華統一へ動きだした秦が本気で中華統一を成すために、王翦・楊端和・桓騎が率いる大連合軍で趙の喉元に切り込むエピソードであり、3か所の展開が同時進行していくこともあって長編となっているのだ。
長編ではあるが“制限時間”がある中での激闘となっているため、内容は非常に濃く見応えがある。
そのぶん見どころが多いので、本記事では鄴攻略編(鄴攻め)の全体の流れ・あらすじをネタバレ解説、注目ポイントをわかりやすく振り返っていく。
キングダム:鄴攻略(鄴攻め)までの流れ
紀元前237年、黒羊丘の戦いで勝利した秦は黒羊を拠点とした趙西部攻略を目指す。
ところがその後に行われた李牧との会談が物別れに終わった結果、李牧が徹底的に趙西部防衛に注力し始め、昌平君は攻略の糸口が見えなくなってしまった。
このままでは西部攻略に最短で10年…そこから邯鄲攻めに数年…否が応でも長期戦となり、15年という期日を掲げている六国制覇が絶望的となってしまう。
李牧は短期間でなければ秦の中華統一は成しえないと気づき、あえて西部の戦いが長引くように動き始めたのだ。
そこで昌平君は正攻法ではない“多くの犠牲を伴う奇策中の奇策”を打ち出す。
それは趙西部攻略を囮にして、南から一気に邯鄲の喉元の“鄴”を攻め落とす「鄴攻略戦」であった。
そして昌平君ら最小限の人数で戦略を練り倒し、翌紀元前236年にいよいよその大戦略が実行される!
キングダム:鄴攻略戦(鄴攻め)は何巻?
鄴攻略編(鄴攻め)は46~60巻で描かれる。
西部攻略と見せかけた意表を突く進軍、そこから始まる王翦と李牧の知略合戦。
そして鄴攻略のための鄴包囲・橑陽の戦い・朱海平原の戦いという3か所同時展開と、ボリューム満点のエピソードだ。
傅抵とカイネや輪虎のエピソード、騰のファルファルの原点や羌族の識と礼など、コミックスだけの巻末おまけマンガも楽しみたい。
キングダム:鄴攻略戦(鄴攻め)概要
食糧集積地「金安」→北上して黒羊からの西部攻略
→と見せかけて東進して趙の国門「列尾」へ
→列尾攻略から一気に趙王都圏「鄴」へ
※「鄴」は邯鄲に次ぐ趙国の大都市
※強力な軍事都市が犇めく王都圏内にある
※王都の蓋と言える「列尾」を抜いて王都圏に進入するのだが、ヘタすると兵站を分断され退路も断たれ、邯鄲・閼与・橑陽からの大軍と鄴に挟み込まれる危険性がある
●秦連合軍20万
【総大将:王翦、大将:桓騎、楊端和】
飛信隊・楽華隊・玉鳳隊・壁軍も参戦
鄴の陥落
キングダム:鄴攻略戦(鄴攻め)注目人物
【飛信隊】
●信
言わずと知れた本作の主人公であり、“天下の大将軍”を目指す飛信隊の隊長。
本エピソードではいよいよ王騎の矛をもって出陣する。
【秦軍】
●王翦
秦国の将軍であり、この決死の鄴攻略戦を託された秦軍総大将。
「列尾」を見て自身の策をもって鄴攻略戦を続行する。
【趙軍】
●李牧
趙の宰相で三大天。
秦が趙を攻略するにはこの男を倒さねばならず、鄴攻略編でも総大将として趙軍の指揮を執る。
キングダム:鄴攻略戦(鄴攻め)見どころ
①3将軍下20万の大進軍と衝撃の進路変更
今回の進軍は総大将・王翦と桓騎・楊端和の三将軍が率いる20万の連合軍。
趙王都に切り込む大戦略であるが、情報漏れを避けるためにこの三将と、的確な現場判断を期待され事前に聞かされていた信(河了貂)・蒙恬・王賁しか聞かされていなかった。
他は全員黒羊からの西部攻略と聞かされており、食糧集積地「金安」に着いてすぐ「鄴」への進路変更が言い渡された。
と同時に趙西部で見張っていた舜水樹からの言伝により、李牧も秦の本当の狙いが「鄴」であることに気づく。
②連合軍の強み
趙軍が次々に阻止に来始めたが、桓騎軍が、次は玉鳳隊が…などと、その都度王翦は別動隊をぶつけてその間に本軍を進ませ続けた。
多局面に同時に対応できる、それが連合軍の強みなのだ。
趙軍が一切足止めできないまま、秦軍は金安での進路変更から10日目であっという間に趙王都圏の“蓋”と言われる「列尾」に到着する。
③山の民と飛信隊が列尾攻略
列尾攻略は楊端和軍と飛信隊に任された。
元よりスピード勝負の鄴攻略戦ではあるが、山の民と飛信隊は1日とかけずに列尾を落としてしまった。
④王翦の策に変更
列尾を鄴攻めの拠点にする予定であったが、列尾は李牧の策によって“あえて弱く”作られていた。
敵国が列尾を抜いて王都圏に侵入した時にすぐに列尾を奪い返し、敵の唯一の脱出路と補給線を塞いでゆっくり包囲殲滅できるようにするためだ。
つまり秦は「列尾を補給線として確保し続ける」というこの攻略戦における絶対条件が打ち砕かれてしまったことになる。
いち早くそれに気づいた王翦は、自らの目で鄴を確認しに行き策を練り直す。
そして急遽、当初の予定を変更して“王翦の策”で鄴攻めを続行することとなった。
⑤前代未聞の兵糧攻め合戦へ
王翦の策をもって全軍で進撃を開始する秦軍。
王翦はまず楊端和軍5万を分離し、公孫龍軍9万が前線を張る北東に進軍させた。
そして王翦は本軍15万によって、鄴までの地に無関係な小城を手分けして攻めて回り始める。
無駄な動きのように思われたが、実は王翦は巧みな動向によってそれら小城から多くの難民を発生させ、鄴に押し寄せるよう仕向けていた。
これにより鄴は受け入れ続けた難民で溢れかえることとなり、つまり鄴攻防戦は秦軍の兵糧が先に尽きるか、鄴の食糧が難民に食べ尽くされるかという前代未聞の兵糧攻め合戦となった。
⑥三手に分かれて展開
鄴の解放に王都圏から多くの趙軍が押し寄せてくることが考えられる。
しかし王翦は、脅威なのは「閼与」と「橑陽」の二軍だけだと考えていた。
そこで王翦は
- 桓騎軍6万が鄴を包囲
- 楊端和軍5万+壁軍1万が橑陽
- 王翦軍7万+飛信隊8千・楽華隊5千・玉鳳隊5千が閼与
と三手に分かれての展開を指示した。
⑦橑陽の戦い
すでに公孫龍軍と戦っていた楊端和軍に壁軍が合流し、趙軍が鄴へ向かわないよう足止めにかかる。
足止めというよりは勝利する気であり、楊端和軍は初めから攻め気であった。
しかし李牧軍副将の舜水樹が総大将として橑陽に到着すると、趙軍は橑陽城を根城にする「犬戎族」を利用、秦軍との戦いに駆り出す。
激闘の末、勝利を掴んだのは秦軍であり、楊端和軍+壁軍は橑陽城にて鄴陥落の報を待つ。
⑧朱海平原の戦い
閼与に向かった秦本軍は朱海平原にて李牧率いる趙軍と激突。
互いに兵糧を気にしながらの激闘となった。
特に食糧不足が兵の気力にかかわる秦軍はとても過酷な戦いとなる。
なぜなら計算上、秦軍の食糧より鄴の食糧の方が多いため、途中から趙軍が引き延ばし始めたからだ。
ところが鄴の食糧庫が炎上したという報が15日目に入り、李牧は戦い方を一変させる。
しかし勝利したのは秦軍であり、李牧は朱海平原の戦いを脱出してそのまま鄴へ向かう。
⑨二手に分かれ鄴へ
朱海平原の戦いに関しては勝利という形になったものの、李牧を逃がしてしまった秦軍は至急、鄴へ向かう李牧軍の追撃を開始する。
ただし「速さ」と「兵糧」を考慮して、軍を縮小して追うこととなった。
追撃隊となるのは秦軍の2割で、王翦のもと倉央軍を主体とした精鋭部隊。
飛信隊からは信や飛麃、楽華隊からは蒙恬や陸仙、玉鳳からは王賁や関常などの主力がこちらに参加する。
残りの8割は重傷兵を多く含む残軍で、田里弥が“うまく食糧を調達しながら”鄴へ向かう。
飛信隊では渕や羌瘣らがこちらの部隊だ。
⑩李牧軍追撃戦
朱海平原の決着から翌日の時点で(16日目)、李牧軍は走り続ければ鄴まであと半日ほどのところまで来ていた。
しかし軍を縮小しただけあって、秦軍がすぐに李牧軍に追いつく。
李牧軍は殿隊でそれを受けつつ先を急ぎたいところであったが、王翦軍・倉央と糸凌の動きがそれをさせなかった。
ところどころ足を止めて対応せねばならず、鄴に到着したのは朱海平原を出て3日後(18日目)の明け方であった。
⑪鄴の陥落
鄴では桓騎軍が待ち構えていた。
しかし疲弊しきった李牧軍ではいくら李牧といえど桓騎軍を押し切れず。
そうしている間に民の暴動によって鄴の城門が内側から開いてしまった。
そして脱出した民の流れを気にしないゼノウを皮切りに桓騎軍が次々と城内に侵入し、鄴はあっという間に陥落。
李牧軍は桓騎軍との交戦をやめ撤退した。
⑫食糧問題、驚きの解決方法
しばらくして秦残軍も鄴に到着。
しかし鄴に食糧はなく、秦軍はやっとのことで鄴まで着いたものの飢餓状態となる。
食糧問題を危惧して昌平君が予め手を打ち補給軍を送っていたのだが、李牧が見逃すはずはなく。
列尾経由の陸路も、それを囮にした黄河経由の水路も封じられ、鄴の秦軍はいよいよ限界を迎えていた。
そこへ突如、大量の兵糧が届く。
やはり水路で届いたのだが、黄河経由は黄河経由でも“趙を挟んだ秦の反対側”…なんと斉からの兵糧船団であった。
実は鄴攻略戦の出発前に王翦が昌平君に頼んでいたのだ。
これをもって戦いは完全終結。
秦は不可能と言われた鄴攻略を成し遂げた。
キングダム:鄴攻略戦(鄴攻め)結末
- 騰軍が改めて列尾攻略(後述の趙軍内紛の影響で戦を経ずに占領)
→列尾・橑陽・鄴の三角地帯を手に入れ、秦は趙王都圏の南半分を抑える
→5か月後、三角地帯に人を移住させる - 論功行賞により信(李信)、王賁、蒙恬が揃って将軍に
→飛信隊は1万5千の軍(うち羌瘣隊5千)となり、再び対趙前線の鄴へ - 趙軍の大防衛戦に苦戦
→趙攻めに専念するため魏との同盟を提案(什虎攻略編へ)
- 朱海平原の敗戦の咎を理由に李牧が強制連行、投獄される
→李牧を巡り内戦状態に - 悼襄王が急死し、末子・遷が第10代趙王となる
→太子・嘉と李牧軍は逆賊として邯鄲を追われる身に
→李牧は青歌で再起をはかる
キングダム:鄴攻略戦(鄴攻め)まとめ
鄴攻略編(鄴攻め)は趙の第二都市・鄴の攻略を狙う一大作戦であり、一気に趙王都圏に切り込む決死のエピソード。
多くの犠牲を覚悟しながらもそれ以上の覚悟で趙攻略を目指す秦と、国滅亡の危機が現実的となった趙の絶対に負けられない壮絶な戦いとなったが、秦が勝利して一気に趙に王手をかけた。
大枠としては王翦と李牧の知略対決が見どころではあるのだが、それを決したのがこの戦いの功で揃って将軍となる信・王賁・蒙恬という若手武将の覚醒という点が、秦の勢いを表しているようで面白い。
鄴攻略編は袋小路といえる趙王都圏への進入&食糧問題によって極度の緊張下で行われた、最初から最後までクライマックスといえる名エピソードだ。
転勤で全国を渡り歩く流浪のマンガ好き。
現在は北海道在住で金カム等の聖地巡礼を満喫中。
自分用のメモを発展させブログにした形でして、端的にまとめるためにあえて感情を省いた文章にしています。
基本的には自分が好きな漫画だけになりますが、作品を知りたい・内容をおさらいしたい・より漫画を楽しみたい等のお役に立てればと思っています。